材質:SWP-B(SWRS)
線形(材料断面寸法):[2.8mm×5.0mm]

  • 初張力を最大限得るために巻き方や熱処理を工夫

 

最大限の初張力を得るように工夫された異径線・半丸フックの引っ張りバネ

こちらの作業工具用ばねは、使用される用途的に最大限の初張力を出すことが非常に重要とのことでしたので、巻き方や熱処理の温度を工夫することで要望を実現しました。
2点押さえの平線は、4点押さえの角線よりも加工難易度が高くなります。

①巻き方を工夫

最大限の初張力を得るように工夫された異径線・半丸フックの引っ張りバネ

画像ではわかりにくいかもしれませんが、よく見ると線材が芯金に対して垂直ではなく少しだけナナメになっています。これはあえて少し傾けながら巻いており、そうすることで垂直に巻いたときと比較して、より大きな初張力を得られるというメリットがあります。

ナナメの角度の管理も難しいですが、岩津発条の職人技によって、芯金に密着させながらナナメに巻くという難加工を実現しました。

②熱処理の温度を工夫

熱処理の目的は残留応力(元の形に戻そうとする力)の除去であり、これをすることで寸法が安定するというメリットがありますが、逆に初張力の残存率が下がるというデメリットもあります。正確な計算式は現在存在しませんが、熱処理の温度が高ければ高いほど残存率は少なくなっていくことがわかっています。

今回の場合は初張力を得ることが最も大きな目的であったため、必要以上に初張力の残存率を減らさないよう、比較的低温で、温度管理に気を付けながら製作しました。

その他の難加工ポイント

自社製作の治具で半丸フックを立ち上げ

自社製作の治具で半丸フックを立ち上げ

初張力の話とは少し話が逸れますが、巻き終わった後の半丸フックの立ち上げは自社オリジナルの治具を使って加工しています。
詳しくは設備紹介のページに動画付きで掲載しましたのでぜひご覧ください。

治具を使った加工風景

異径線の絞り加工

異径線の絞り加工

半丸フックの反対側は絞り加工をしています。異径線であることに加え、ナナメの角度を保ちながら、職人の手作業で徐々に径を小さくして曲げていくという至難の業が発揮されています。

バネの世界ではあるあるなのですが、バネに関する様々な力を算出する計算式がないものもあり、またあったとしても予想外の結果に繋がったりもします。今回の場合でも、熱処理の温度によって初張力の残存率が異なってくること自体は文献にも掲載されていますが、正確に何度の熱処理でどれくらいの残存率になるのか、という正確な計算式が存在しないため、職人の経験値によって補う場面も多いです。

設計の方からすると不自由する場面も多いと思いますが、普段から加工をしているバネ屋の経験値や記録をぜひ頼っていただければと思います。岩津発条では言われたことをただやるだけではなくお客様の要件を元に密に擦り合わせを行うことでより最適な提案をさせていただきます。

岩津発条では、様々な難加工の経験から、独自に集めた記録や経験値を元に最適な加工方法を提案させていただきます。相談段階でも構いませんのでぜひお問い合わせください!

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